障害女性たちがジュネーブに飛んだ 報告会 In 京都

先月のお話ですが、

2016 年 3 月 21 日(月・祝)14:00~17:00 @ ハートピア京都 第5会議室

国連女性差別撤廃委員会 日本政府審査傍聴&ロビーイング活動報告会 In 京都
障害女性たちがジュネーブに飛んだ
草の根の声よ、国連に響け!


のレポートです。


2月15日~3月4日まで、スイス・ジュネーブの国連本部で
国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)が開催されました。
この委員会は、国連女性差別撤廃条約を批准した各国が
この条約をどのように実行しているかを審査し
不足不備がある国に、勧告を行うためのものです。

2月16日には日本政府の審査が行われました。
この審査に際し、日本から様々な女性団体が傍聴に行きましたが、
DPI女性障害者ネットワークからも
当事者や支援者が、傍聴とロビーイングに赴かれました。


この日の報告会のスピーカーは、実際に傍聴とロビーイング行かれた、

原久美子さん (自立生活センター神戸Beすけっと)
加納惠子さん (関西大学教授、元内閣府障害者差別禁止部会委員)

お二方とも障害当事者でもあります。

イメージ 1



本題に入る前にお知らせ。
この投稿の下方に用語解説を付けておきました。
初見の方からすると、専門用語が多くてムズカシー!わからーん!
となるのではと思うので。
分からない時はそちらが参考になれば幸いです。



ではまずは、日本政府に出された勧告の抜粋要約(PDF) からさらに抜粋して
お二人が報告されたロビーイング内容についてです。
報告会からちょっと時間がたちすぎていて、記憶があいまいなので、
から色々と参考にさせていただきました。



意思決定の場に、もっと障害女性当事者の参画を

■18・19・30・31.政治的および公的活動、意思決定の地位における障害女性等の参画の低さ/法令による暫定的特別措置(クオータ制を含む)を含む具体的措置をとることを求める。

つまり、意思決定の場に、もっと障害女性当事者の参画を!ということです。
そうしないと障害女性の意見がうまく反映されず、
結果、障害女性が使いにくい制度や、生きにくい社会が変わりません。




相談窓口やシェルターに障害女性もアクセス可能にする

■22 (c)・23.DVを含む暴力被害者である障害女性等の通報困難な状況を懸念/刑法改正、通報やシェルター利用の可能化、職員研修等を強く要請する。

女性を支援する機関の窓口や、シェルターなどの施設の大半は
障害がある人の利用を想定していないそうです。
だから、障害女性当事者にとっては、相談することも通報も困難で、
日常的な不安、恐怖、さまざまな暴力にさらされながら
支援を得られていない人が多くいるそうです。

私はこの問題について正直まったく知らなかったのですが、例えば普通の電話相談しか用意されていなかったら、聴覚障害者は利用困難、段差だらけのシェルターでは、車いすでの利用が困難ですよね。こういうことは、健常であっても一歩を踏み出しにくいことなのに...と思いました。



優生保護法による被害者の調査・救済・賠償など

■24 ・25.強制不妊手術被害者(70%が女性)の調査、加害者の起訴、有罪となった場合の処罰、被害者の法的救済、賠償およびリハビリテーションサービスを提供するよう勧告する。

「優生保護法」は、1996年に現在の「母体保護法」に改正され、
強制不妊手術の規定はなくなりましたが、
それまでに、本人の同意なしに行われた不妊手術の被害者は
公式統計だけでも約 16,500 人にのぼり、
その約 70%が女性だったそうです。
その過去の過ちに対して、国は何も動いていないので、
被害者への救済や賠償などをするようにということです。

この問題を学生時代に知った時の衝撃は、今でもよく覚えています。戦後1996年までもこんな法が残されていたことが本当にショックでした。でもその後特に追っていなくて、救済も賠償もされていないことは知りませんでした。



雇用分野その他に関する複合差別が公式に把握されていない

■34(e)・35.雇用分野における障害女性等の複合的な差別状況を懸念/雇用分野の調査を実施し、ジェンダー統計を提供すること。

単身世帯について、
男性全体の年収を100 とすると、女性全体は66、
障害男性は44、そして障害女性は22(92 万円)
という低さなんだそうです。(情報源はこちらのP5

経済的に自立した生活ができていないということは、
例えば日常的にDV、虐待、性的被害を受けていても
自由になるお金が少なく、先の見通しも立てづらいことが不安で
経済的に自立している人よりも逃れられない傾向にあります。
他にも、社会でほかの人とのつながりをもつこと、情報を得ること発信すること、
健康を守ることなどを難しくさせている場合もあります。

まず、
①障害女性が障害男性よりも採用してもらえない、職探しが困難という差別がある。
それによって、
②障害女性が経済的に自立できず、社会の様々な物事へのアクセスを困難にする。
いざアクセスしようとしても、
③相談支援窓口やシェルターなどにバリアがあって利用できない。

このような複合差別の構造になっているんですね。


ですが、このような差別の現状は、公式統計としては把握されていないそうです。
障害者に関わる国の調査統計データの多くは、
性別による集計がなされていないため、
障害者全体の中で、性別による格差があるのかどうかも
把握しにくいのが現状です。
特に性的被害においては、
個人のプライバシーに触れることが多いため、表面化されにくく、
実態を示す統計データもほとんどなかったそうです。
つまり、基礎データがないので
政府は的確な政策を立てられておらず、
それだけ障害女性の複合差別問題は、放置されてきたということになります。



重度障害のある胎児の中絶について

ここまでは、CEDAWからの日本政府への勧告の中で、
DPI女性障害者ネットワークもだいたい同意、つまり
CEDAWの勧告≒DPI女性障害者ネットワークの意見
だったわけですが、この項目については、
CEDAWからの日本政府への勧告に
DPI女性障害者ネットワークが異を唱えている内容です。


基本的にCEDAWは、
中絶の選択を、母親ができるようにするという立場です。
CEDAWの委員の一人、ブラジルのピメンテル委員は、
お腹の子に重度障害がわかった場合、
母親が望めば中絶の選択ができるように
という主張なんだそうです。

それに対して、DPI女性障害者ネットワークとしては
重度障害があっても、母親や家族だけで育てるのではなく、
社会全体がそれを担う環境を整えましょう、まずはそちらが先
ということを理解してもらえるように、ピメンテル委員にお話ししたそうです。
(DPI女性障害者ネットワークは、
優生思想に容易につながるような、選択的中絶を進める制度は反対。
だが、中絶そのものに真っ向から反対しているというわけではない。
ただその前に、
母親が障害のある子を産む選択をしても
母親の自己責任として放置されるのではなく、
上記のような、障害がない子と同じように産み育てられる支援や
母親への、正しく十分な情報提供やカウンセリングなどが
整えられることが最優先という立場。 こちらのP15(PDF)参照)

ですが、あまり理解してもらえていない感触だったらしく、
「あなたたちのような障害のことではなく、
もっと重篤な障害のことを言っているのよ。」
とおっしゃっていたそうです。


ちなみにピメンテル委員は、母国ブラジルで、
妊婦がジカ熱に感染した時点で、中絶を認められるように
法律を改正するよう訴えているメンバーの一人のようです。
ブラジルでは、ジカ熱が流行していて
妊婦が感染すると、小頭症の子が産まれる確率が上がるとして
中絶の是非が論争となっているそうです。

この記事は言語選択できますが、
日本語はただのグーグル翻訳なので、読める方は英語で。

『ジカ熱:「是か非か」カトリック大国ブラジルで中絶論争』

今月に入って、ジカ熱が小頭症と因果関係あり
との研究結果が発表されています。

ブラジルのシルビア・ピメンテル ( Silvia Pimentel ) 委員のプロフィールはこちら (PDF)


日本でもここ数年は
新型出生前診断による、中絶の是非をめぐる議論があります。
2016.04.25 の記事。


あと、CEDAWは施設賛成派なんだそうです。
なぜなら、家族内の
女性によるケアワークの負担を減らせるからです。
ですがこれも、子育てと同じで
ケアワークは女性がするもの
という考え方から発せられてるとも言えるし、
施設でなく、家族だけでもなく、
地域や社会全体でケアを担う
という考え方を理解してもらう必要がある
とお二人は話されていました。



報告会の新聞記事
『女性障害者への暴力に国際的注目 国連ロビー活動報告会』




以上、

2016 年 3 月 21 日(月・祝)14:00~17:00 @ ハートピア京都 第5会議室
国連女性差別撤廃委員会 日本政府審査傍聴&ロビーイング活動報告会 In 京都
障害女性たちがジュネーブに飛んだ
草の根の声よ、国連に響け!

のレポート by JCIL本体 でした。


あとがき
国連で行われていることなんて、すべて遠い雲の上のことのように私は考えていました。でも、障害当事者が実際にジュネーブまで行き、国連の委員に直接話すというロビーイングのことを、実際に行って来られた方から聞くと、想像していたよりも身近に感じることができました。しかもCEDAWの委員とランチミーティングだとか、たまたま委員とすれ違ったから、つかまえてこちらのことをアピールしたとか、本当に草の根の活動の場もあるんですね。大きな会議室で、えらい人たちによって行われることがすべてなわけではなく、とても人間臭い、一対一の対面で、一般の当事者の意見を聞く機会を設けられていることに希望を感じました。

簡潔と平易を両立する能力がなく、長々と書いてしまいました。。。難しい話題がとりあえず少しでも分かりやすければうれしく思います。誤解のないように言っておくと、報告してくださったスピーカーのお二人のお話は、難しいトピックもとても分かりやすかったです。ので、みなさんも機会をキャッチしてぜひ!
(オカヤマ)






【用語解説】

●CEDAW(セダウ) とは?
女性差別撤廃条約」 または、「女性差別撤廃委員会」 のこと。
 
女性差別撤廃条約: 1979年に国連総会で採択された国際条約。日本は1985年に批准。
女性差別撤廃委員会: この条約の履行状況の審査をする機関として、1982年に発足した委員会。国連総会に履行状況を報告すると同時に、締約国に勧告を行う。


●DPI女性障害者ネットワーク とは?
日本の障害のある女性の権利擁護啓発活動を行っているネットワーク組織。
「たんぽぽネット」という全国規模のメーリングリストがあり、京都の女性当事者らも参加している。





個人や団体が、政策決定に影響を与えようとする活動のこと。


●条約
文書による国同士の合意、または国と国際機関との合意。


●なぜ日本政府がCEDAWから審査や勧告を受けなければならないの?
日本では、国内法より条約が優位なので、条約に違反する国内法や条例があってはならない
この場合、日本が批准している女性差別撤廃条約に違反する日本の国内法があってはならない。

「国連女性差別撤廃条約の国内での位置づけは?」 の部分参照。


クオータ制
不利益を被っている少数派集団に対して、平等を実現するために一定数の人員枠を割り当てる制度。
政治経済などの場において女性リーダーが少ない場合、男女平等を実現するために一定数を女性に割り当てるという意味でよく使用される。


●複合差別ってどんな差別?
同時に複数の立場を生きる個人がこうむる差別。ここでは特に、障害者であることと女性であることで発生する差別を指す。
方の差別だけに着目すると他方の差別が見えなくなり、問題が解決しにくくなる。
また、差別が複合的になることで、単に足し算ではなく、掛け算的な大きな不利益にむすびついている。



1948年~1996年まであった、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とした日本の法律。
遺伝性疾患や障害を理由とする不妊手術と人工妊娠中絶を合法とし、不妊手術は強制的に行うことも認めていた。「不良な子孫」とは障害をもつ人をさし、障害児を産む可能性があると見なされた人に、妊娠・出産をさせないための法律だった。
1996年に現在の「母体保護法」に改正され、強制不妊手術の規定はなくなったが、障害女性当事者へのアンケートによると、月経の介助がいらないようにと子宮摘出を勧められた経験も回答されており、現在もありえることとしての検証と取組が求められている。また、障害のある子を産むのではないかと中絶を勧められるという経
験は、昔も今も後を絶たない。